お酒は本当に「軽いドラッグ」なのか? 依存性を科学的に比較した英Lancet論文を読み解く

「大麻やコカインは怖いけど、お酒は合法だし別物でしょ」——そう思っていませんか?

実は2007年、英国の精神医学・薬理学の専門家チームが、アルコールを含む20種類の薬物の”依存性”を科学的な基準で横並びに比較するという、当時としては画期的な研究を発表しました。今日はこの研究を深掘りしながら、”合法だから安全”という思い込みを一度ほどいてみたいと思います。

この研究、何がすごいのか

英ブリストル大学のデイビッド・ナット教授らのチームは、精神科医・薬理学者・法科学の専門家など29人〜16人規模の専門家グループを組織し、デルファイ法という合意形成の手法を用いて、薬物の”害”を9つの指標・3つの大分類で評価しました。

3つの大分類は次の通りです。

  1. 身体的な害(急性毒性・慢性毒性・静脈注射によるリスク)
  2. 依存性(快楽の強さ・心理的依存・身体的依存)
  3. 社会的な害(酩酊による問題・家族社会への悪影響・医療コスト)

評価は0(リスクなし)〜3(極度のリスク)の4段階で、専門家がそれぞれ独立にスコアをつけ、その平均値を算出するという方法が取られました。

依存性スコアだけを見ると

今回のテーマである「依存性」の軸だけを抜き出すと、スコアは次のようになっています(0〜3点満点、数字が大きいほど依存性が高いと評価)。

薬物依存性スコア快楽の強さ心理的依存身体的依存
ヘロイン3.003.03.03.0
コカイン2.393.02.81.3
タバコ2.212.32.61.8
アルコール1.932.31.91.6
大麻1.511.91.70.8

ここで見えてくるのは、単純な「アルコールが一番危険」という話ではないということです。依存性という軸に絞れば、アルコールは大麻よりは明確に高いスコアですが、コカインやヘロインよりは低いという結果でした。

一方で、この論文にはもう一つ重要な発見があります。「総合的な害」(身体的害・依存性・社会的害の9項目すべての平均)で見ると、アルコールはヘロイン・コカインに次ぐ第3位に位置づけられ、大麻・LSD・エクスタシーといった規制薬物(英国のクラスA薬物含む)よりもはるかに上位にランクされました。これは、アルコールが合法であるにもかかわらず「酩酊による事故・暴力」「家族や社会への悪影響」「医療コスト」といった社会的な害が非常に大きいためです。

つまり、どういうことか

この研究が伝えているメッセージは、シンプルにまとめると次の2つです。

  • 依存性の”強さ”だけで見れば、アルコールはヘロインやコカインより穏やかだが、大麻よりは明確に依存を形成しやすい。
  • 総合的な害(社会全体への影響)で見れば、合法か違法かという区分と、実際の科学的な危険度はほとんど一致しない。

論文の著者らは、現在の薬物規制の分類(英国の薬物乱用法によるA・B・Cのクラス分け)が、科学的根拠というよりは歴史的・恣意的な経緯で決まっていることを指摘しています。

トレーナーとしてこの研究から伝えたいこと

「タバコよりお酒のほうが健康的」「合法だから安全」という言説を耳にすることがありますが、科学的な依存性・社会的害という観点で見ると、それは正確な理解とは言えません。かといって、お酒を完全に否定する必要もありません。大切なのは、自分の飲酒習慣を”なんとなく”ではなく、事実ベースで把握することです。

トレーニングは、お酒をやめさせるためのものではありません。ただ、日々の身体づくりに取り組む中で「今週は何回飲んだか」「トレーニング後についお酒に手が伸びていないか」を意識するだけでも、体調やパフォーマンスの変化を実感できるはずです。まずは自分の習慣を客観視することから始めてみましょう。


参考文献 Nutt D, King LA, Saulsbury W, Blakemore C. “Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse.” The Lancet. 2007;369(9566):1047-1053.

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